民事信託(家族信託)の概要

1.信託とは

信託とは、一定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます(信託法2条1項)。
つまり、信託は、委託者(財産を有する人)が、受益者(自己や利益を与えたい者)の利益のために、受託者(財産を管理する人)に財産の管理・処分を委ねる制度です。
受託者が営業として信託を引き受ける場合は、商事信託又は営業信託と呼ばれています。他方、受託者が営業として信託を引き受けるものでない場合のことは、民事信託又は家族信託と一般的に呼ばれています。

2.信託行為の区分

信託行為は、①契約による信託、②遺言信託、③自己信託の3つに区分されます(信託法2条2項)。

3.信託の方法

信託の方法は、上記2の信託行為の区分に応じて、次の3つの方法があります。
①契約による信託:委託者と受託者との間で、信託契約を締結する方法(信託法3条1号)
②遺言信託:委託者の遺言により設定する方法(信託法3条2号)
③自己信託:委託者が自らを受託者として、公正証書その他の書面又は電磁的記録によって信託を設定する方法(信託法3条3号)

4.信託財産

信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産のことをいいます(信託法2条3項)。
つまり、信託の設定によって、委託者から受託者に譲渡等された財産が、信託財産となります。
なお、受託者に属する財産であって、信託財産に属する財産でない一切の財産のことを固有財産といいます(信託法2条8項)。  

事例1 ~自宅不動産の管理・処分~

1.概要

Aさん(75歳)は、子がおらず、夫は10年前に他界しています。 幸い、夫が遺してくれた自宅不動産を相続し、年金もあるので、当面の生活に困ることはありません。 しかし、最近になって体の衰えを感じるようになり、信頼のおける甥Bに財産管理を任せたいと考えるようになりました。

2.対応策

(1)現状を維持する場合 現状を維持する場合、例えば病気や怪我等でAの判断能力が不十分な状態になってしまうと、不動産の管理処分は凍結され、施設入所費用等のため不動産を売却する必要が生じたときは、成年後見制度を利用することになり、速やかな売却が困難になるおそれがあります。
(2)民事信託を利用する場合 Aを委託者兼受益者、Bを受託者として信託契約を締結します。
信託を設定することによって、自宅不動産は、受託者Bの名義になります(ただし、自宅不動産がBの固有財産になってしまうというわけではありません)。
受託者Bは、委託者兼受益者Aのために一定の目的に従って不動産を管理し、施設入所費用等のため不動産を売却する必要が生じたときは、速やかに不動産を売却して必要資金を確保することが可能になります。
税負担については、委託者兼受益者Aから受託者Bに自宅不動産の名義を変更(所有権移転)する際は、登録免許税(0.3~0.4%)がかかるのみで、不動産取得税や贈与税は課税されません。
また、受託者Bが不動産を売却した際は、Aが自宅不動産を処分したものとして、税務上の要件を満たす限り、居住用不動産の3,000万円の特別控除を受けることが可能です。