任意整理

任意整理とは

任意整理は、裁判所を通すことなく、消費者金融や信販会社等の債権者と、返済額や返済方法等について個別に交渉を行い、互譲による和解が成立することによって、現状よりも返済の負担を軽減させることが可能となる裁判外の手続きです。 任意整理は、特定調停・民事再生・自己破産といった裁判手続とは異なり、必要な書類をたくさん揃えないといけないわけではないので、裁判手続と比較すると簡単な手続きといえます。 一方で、任意整理には法的な強制力がありませんので、債権者が任意整理に協力的でない場合は、和解交渉が難航し、任意整理がうまくいかないこともあり得ます。

任意整理の和解基準

任意整理手続では、以下の「任意整理の統一基準」に基づいて各債権者と和解を行います。

1.取引経過の開示 当初の取引よりすべての取引経過の開示を求めること。 取引経過の開示は、金融庁の事務ガイドラインにも明記されており監督官庁からも業者に対し徹底することが指導されている。もし取引経過の開示が不十分な場合、和解案が提案できないことを通知し、監督官庁(財務局、都道府県知事)等へ通知する。 2.残元本の確定 利息制限法の利率によって元本充当計算を行い債権額を確定すること。確定時は債務者の最終取引日を基準とする。 3.和解案の提示 和解案の提示にあたっては、それまでの遅延損害金、並びに将来利息は付けないこと。 債務者は、すでにこれまでの支払が不可能となり、司法書士に任意整理を依頼してきたものである。担当司法書士としては、債務者の生活を点検し、無駄な出費を切り詰めて原資を確保し和解案を提案するものであり、この残元本にそれまでの遅延損害金、並びに将来利息を加算することは弁済計画を困難とならしめる。したがって、支払については、原則として遅延損害金並びに将来の利息を付けない。

※この基準は、日本司法書士会連合会によって制定されたもので(各単位弁護士会も同様の基準を制定しています)、多くの貸金業者は同基準に沿った和解に応じてくれます。しかし、一部には、同基準に基づく和解を受け入れない貸金業者等も存在します。そのため、近時では各司法書士会や各弁護士会から同基準を遵守することを求める声明や意見書が出されています。

履行可能性の検討

任意整理は、利息制限法による引直計算を行った結果、残った債務について、原則としてその元本の全額を3年から5年程度の期間で分割して返済する手続きです。元本の全額を返済するのが原則なので、債務額が大きい場合や返済の原資となる収入が少ない場合等は、無理な和解をしてしまうと、途中で返済が行き詰ってしまう可能性があります。したがって、和解を提案する前に履行可能性を慎重に検討する必要があります。

弁済計画案の策定

債権者から取引履歴が開示され、利息制限法による引直計算が終了し、そして債務額が確定したら、返済計画案を策定します。 返済計画案を作る過程で、月々の返済可能金額を算定することになりますが、どんぶり勘定にならないように、今後の予測家計表を作成するなどして返済可能金額を決めるのが良いでしょう。 そして、少なくとも2万円程度は突発的な出費等に備えて貯蓄するようにして、無理のない返済計画案を策定することが望ましいといえます。

和解成立・返済開始

交渉の結果、和解が成立したら、和解書を取り交わします。 和解が成立したら、いよいよ返済が始まります。 和解後の返済は、債権者が指定する振込口座に振り込む方法によって行うのが一般的です。和解の条項には、返済を怠ると期限の利益を喪失して遅延損害金を付加して返済しなければならいという条項(過怠約款)が盛り込まれることが多いので、毎月の振込みを失念しないように十分留意する必要があります。 また、振込の明細書等には債務の残高は記載されませんので、債務残高を債務者側で把握をしておくことも必要になります。

民事再生(個人再生)

個人再生とは

個人再生は、多額の負債を抱えて債務の返済ができなくなるおそれがあるとき、裁判所を通して債務の一定額をカットしてもらい、残りの債務を原則3年間(特別な事情がある場合は5年まで延長が可能)で返済する裁判手続です。 また、一定の要件を満たす住宅ローンについては、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することによって、そのまま払い続けるか又はリスケジュールをすることで、住宅を維持しながら再生を図ることも可能です。

小規模個人再生と給与所得者等再生

個人再生手続には、自営業者などを対象とした小規模個人再生とサラリーマンなどを対象とした給与所得者等再生の2種類の手続きがあります。 ただし、サラリーマンであっても小規模個人再生を利用することがほとんどです。その理由としては、給与所得者等再生では、可処分所得の2年分以上は弁済しなければならないという要件があり、小規模個人再生に比べて弁済額が高額になってしまうことなどが挙げられます。

個人再生の申立要件

個人再生を申立てるには、次の申立要件を満たしていることが必要になります。

  • 支払不能のおそれがあること。
  • 個人の債務者であること。
  • 将来おいて継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること。
  • 再生債権の総額が5000万円を超えないこと(住宅貸付債権の額、別除権の行使によって弁済が見込まれる額、再生手続開始前の罰金等を除く)。
  • 給与所得者等再生の場合は、上記に加えて給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれること。

最低弁済額

個人再生手続では、基準債権の総額によって、次のように最低弁済額が定められています。

  • 100万円未満の場合:基準債権の総額
  • 100万円以上500万円未満の場合:100万円
  • 500万円以上1500万円未満の場合:基準債権の総額の5分の1
  • 1500万円以上3000万円未満の場合:300万円
  • 3000万円以上5000万円未満の場合:基準債権の総額の10分の1

※基準債権とは、配当の対象となる債権の総額から、別除権の行使によって弁済が見込まれる債権額や、住宅資金特別条項を定める場合の住宅ローン債権額を控除した額をいいます。

清算価値保障の原則

算価値とは、破産における配当額のことを意味します。個人再生手続では、再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反しないようにする必要があることから、最低弁済額は、清算価値以上でなければならないとされています。これを清算価値保障の原則といいます。

可処分所得要件

給与所得者等再生手続では、上記の最低弁済額及び清算価値保障の要件に加えて、支払総額が可処分所得(収入から所得税、住民税、社会保険料及び最低生活費を控除した額)の2年分より高い金額でなければならないという要件があります。

申立書の作成

個人再生手続を申立てる前提として、債権者一覧表に記載すべき債権額等を事前に調査する必要があります。通常は、債権者から取引履歴の開示を受けて、利息制限法による引直計算を済ませてから申立てを行うことになります。 債権調査終了後、申立書の作成に必要な書類等を集めます。そして、必要な書類が概ね揃ったら、申立書作成の打ち合わせを行います。

再生手続開始決定

申立書が作成できたら、管轄の裁判所に申立てを行います。裁判所で申立書が審査され、個人再生手続の要件を満たしていれば、再生手続の開始決定がなされます。 開始決定がなされると、申立人の住所・氏名、再生手続を開始する旨、再生債権の届出期間や異議申述期間等が記載された書面が交付され、申立人や知れたる再生債権者に通知されます。また、同様の内容が官報にも掲載(公告)されます。

【試験的積立】 開始決定がなされると、裁判所から毎月一定の金額を積立てるよう指示されます。これを試験的積立といいます。試験的積立は、再生計画に基づいた弁済の履行可能性をより正確に判断するための方策として行われています。

※入金が遅れたり、金額が不足したり、あるいは途中で引き出したりしないように十分留意しなければなりません。

再生計画案の作成

一定の再生債権額を確定させる手続きを経たら、次に再生計画案を裁判所に提出します。再生計画案には、次のような条項を記載します

  • 再生債権者の権利の変更について、債務の減免や期限の猶予、その他の一般的基準。
  • 共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項。
  • 少額債権を一括弁済するときは、その弁済時期。
  • 別除権付再生債権者の不足額について、不足額確定後の権利に関する的確条項。
  • 住宅資金特別条項を定める場合は、その内容。

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)は、一定の要件を満たす住宅ローン債権について、住宅ローンの返済を続けるか又はリスケジュールして返済することを認めることで、住宅を維持しながら再生を図ることを可能とする制度です。

再生計画の認可

再生計画案が提出され、不認可事由がなく、かつ、所定の期間を経過している場合は、裁判所は再生計画案を書面決議に付する旨の決定をします(給与所得者等再生の場合は、届出再生債権者の意見を聞く旨の決定をします)。

【書面決議の可決要件】 再生計画案に同意しない旨を書面で回答した議決権者が、議決権者総数の半数に満たず、かつ、その議決権の額が議決権総額の2分の1を超えないときは、再生計画案の可決があったものとみなされます。

※再生債権者が不同意の回答をするケースはあまり見受けられませんが、大口債権者や政府系金融機関などが存在する場合は、事前に賛同を求めたり書面決議のない給与所得者等再生の選択を検討するなどの対応が必要になる場合もあります。

【再生計画の認可要件】 再生計画案が可決された場合(給与所得者等再生の場合は、届出再生債権者からの意見聴取後)、裁判所は不認可事由がある場合を除いて、再生計画の認可決定をします。

【認可決定後】 認可決定が確定したら、返済が始まります。

自己破産

自己破産は、多額の負債を抱えて債務の返済ができない状態に陥ったとき、裁判所に破産を申立て、価値のある財産を換価して債権者に公平に配当するとともに、免責の許可を得ることによって、債務の負担から完全に開放してもらう裁判手続です。 なお、債務者が自ら破産の申立てを行うことを自己破産と呼び、債務者が自然人(しぜんじん)の場合を個人破産または消費者破産と呼びます。 ここでは、特に断りのない限り自然人の破産手続について概説します。

破産手続の開始原因

破産手続の開始原因は、支払不能であることです。支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます。また、債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定されます。

免責許可

破産を申立てだけでは、債務の支払義務は免除されません。免責の許可が確定することによって、債務の支払義務から解放されます。個人破産の場合は、この免責許可を得ることが目的であるといえます。

免責不許可事由

免責不許可事由として次のような事情が挙げられます。

  • 財産を隠していた場合
  • クレジットなどで購入した商品をすぐに売却(換金行為)
  • 特定の債権者のみに行った返済(偏頗弁済)
  • 浪費やギャンブルが顕著な場合
  • 破産申立ての意思を有しながらの借金
  • 破産申立書に虚偽の記載をした場合
  • 虚偽の債権者名簿の提出
  • 裁判所や破産管財人の調査に協力しない場合
  • 破産管財人等の職務を妨害した場合
  • 過去7年以内に免責を受けている場合

裁量免責

免責不許可事由に該当する場合であっても、裁判所は、破産に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができます。これを裁量免責といいます。

非免責債権

次のような債権は、非免責債権として免責の効果が及びません。

  • 租税等の請求権
  • 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
  • 次に掲げる義務に係る請求権

イ.民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ.民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ.民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ.民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ.イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの

  • 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
  • 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
  • 罰金等の請求権    
事例紹介